Challenge

ビジョンを描く、挑戦の物語
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Technology
2025/12/26

立ちはだかったのは「技術」ではなく「言葉」の壁だった。レアジョブグループのコーポレートエンジニアが挑み続ける、内製化DXの軌跡

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が、ビジネスの現場を席巻して久しい。 しかし、その実態はどうだろうか。「ツールを入れたが定着しない」「外部に丸投げした結果、現場の業務と乖離した」―― そんな嘆きが、多くの企業から聞こえてくる 。

なぜ、うまくいかないのか。
その答えを探るべく、EdTechカンパニーとして「テクノロジー」をアイデンティティとするレアジョブグループの「変革の伴走者」たちに話を聞いた。 彼らは、グループ全体のシステム基盤を支えるコーポレートエンジニアリング部門(ITS:IT Solution)のメンバーたちだ。

彼らに求められる役割は、いわゆるDXを外部委託するのではなく、「内製化」を実現する・推進することだった 。
そこには、単なるシステム導入の話では片付けられない、エンジニアたちの「人」だからこその葛藤と挑戦の物語があった。

単なるデジタル化ではない。「文化」を変える戦い

そもそも、彼らが目指す「DX」とは何なのか。
彼らとの対話を通じて見えてきたのは、世間一般で言われる「IT化(デジタイゼーション)」とは似て非なるものだった。

世間での定義によれば、紙をデジタルにするのは第一段階の「デジタイゼーション」。業務を自動化するのは第二段階の「デジタライゼーション」に過ぎない 。 真のDXとは、ビジネスモデルそのものを変革し、新しい価値を創出すること。
そして何より、
「現場が高いIT活用意識を持ち、能動的に改善が進む文化」そのものを醸成することにある 。

多くの企業がスピードや専門技術のオンデマンド、レガシーからの脱却などを求めて外部委託を選ぶ中、レアジョブグループはあえて「内製化」にこだわる。社内にテック機能を持つレアジョブグループだからこそ、技術と実績を蓄積し 、自分たちの手で課題を解決することが、結果として最も本質的な改善につながると信じているからだ。

エンジニアが描いた「4つのロードマップ」

この壮大なミッションを遂行するため、エンジニアたちは2021年の秋頃から、明確な4つのステップ(段階)を描き、着実にソリューションの拡大を進めてきた 。

  1. Google Workspace基盤での小さな改善(GASなどの活用)
  2. システム間連携による業務自動化(API連携)
  3. AI活用による業務効率化(生成AIの導入)
  4. 専用AI開発による高度な自動化(RAG等の活用)


階段を一段ずつ上るように設計されたこのロードマップ。しかし、地図があれば目的地にたどり着けるわけではない。
彼らの前に立ちはだかったのは、技術的な難題ではなく、人特有の「言葉の壁」だった。

「技術」の前に立ちはだかる、「言葉」の壁

「DXにおいて一番の障壁になるのは、技術的な実装そのものではありません。『業務の可視化と言語化』なんです」
あるエンジニアはそう語る。

彼らの元には日々、現場から「業務を最適化したい」という相談が舞い込む。しかし、いざヒアリングを始めると、多くの現場担当者は自分たちの業務フローを明確に説明できない。手順書が存在しないこともあれば、目的が曖昧なことすらある 。
そこでエンジニアたちは、徹底した「対話」を重ねる。彼らの頭の中には、常に6つのステップからなる「対話の羅針盤」が存在している。

1. 何がしたいか(What) 2. なぜそれがしたいか(Why) 3. 現状どうなっているか(As-Is)

そして、彼らが最も重視するのが次のステップだ。

4.その現状に、どんな『感情』が隠れているか
「時間がかかる」という事実だけでなく、「めんどくさい」「不安だ」といった担当者の個人的な感情まで汲み取る。ロジックだけでなく、現場の心情まで理解して初めて、本当の解決策が見えてくる。

5. 改善内容と実務手順の提案
AIは何でもやってくれる「魔法」のように思われがちだが、決して「魔法」ではない。
ソリューションにおける有力な「手段」として捉え、明瞭な設計を立てることなくして本来の価値は生まれないからだ。
「AIが必要な理由」と「任せる範囲」を明確にし、タスクを細分化して評価基準を設けることが、実務を改善するためには重要なのである。

6. 導入後の継続的な改善
作って終わりではない。
導入後、現場からのフィードバックを受け取りながら試行錯誤を繰り返し、現場と共にシステムを育てていく。

彼らは、技術と業務の間にある深い溝に橋を架ける「翻訳者」であり 、時には業務プロセスそのものの見直しを迫る「改革者」として振る舞う。この地道で泥臭い対話のプロセスこそが、DXを成功に導く鍵なのだ。

 

ステップ1・2:小さな成功体験が、現場の心を動かす

そんな彼らの地道な「対話」は、着実に成果を生み出している。2021年の秋頃から始まった彼らの挑戦は、身近な業務の改善からスタートした 。

【ステップ1:身近な改善】
経理や労務の現場で毎月発生していた「請求書PDFの作成とメール送付」業務 。
全て手動で行なわれていたこの作業は、ヒューマンエラーのリスクも高く、作業時間もかなり時間を要しており、
現場側のオペレーション課題の一つであった。
それに対し、エンジニアはGoogle Apps Script(GAS)の活用を提案 。
結果、作業の自動化によってヒューマンエラーリスクが低減し、現場担当者は心理的な重圧から解放された。また、自動化に伴い手動による作業量が減り、毎月の作業はわずか15分程度にまで短縮(90%削減)された。

【ステップ2:システム連携】
ITS担当者の現場で発生する入社手続きに伴う「新入社員のアカウント作成」業務。
この作業では、手動による入力ミスリスクや申請内容・チェック作業におけるダブルチェック工数の多さ、部署や雇用形態に応じたメールグループ判定作業や複数システムへの煩雑な個別設定作業などの課題を抱えていた。
それに対し、クラウドツール間のAPI連携による業務自動化を導入。
これまで人の手であるが故の課題を抱えていた「アカウント作成」の作業内容は、このAPI連携により作業フローの大部分が自動化され、作業工数の削減や作業ミスゼロに近い状態にまで改善された。

これらはエンジニアが現場の悩みに寄り添い、解像度高く課題を理解したからこそ実現できた「必然の解決策」だ。

※ステップ1の改善フロー図

ステップ3・4:最新技術を活用したビジネス貢献への挑戦

現在、彼らの挑戦はステップ3、そして4へと進み、より最適化された業務環境を実現するために、最新技術の活用を実践している真っ只中にある。

【ステップ3:AI活用】
法務部との改善取り組みでは、生成AIプラットフォーム「Dify」を活用した、レビュー依頼者への契約書レビュー支援が動き出した。法務部で対応していた契約書レビュー業務では、その領域上の特性もあり、契約書レビューに対する判断基準が法務担当に属人化していた。加えて、膨大な契約内容のチェックを少数の法務部隊で対応している実態もあり、精査時間にかなりの時間を要してしまっている実情があった。
そのような状況からの脱却を目指し、改善取り組みがスタート。
AIが条文を「下読み」し論点を整理してくれることで、知識や理解を補助し、法務担当でなくとも一定の品質で素早く論点と確認すべきことの把握を可能に。
これにより、レビュー依頼者と法務担当間のさらなるコミュニケーション効率化を目指している。

【ステップ4:専用AI開発】
さらに、総務部への問い合わせ対応には、「RAG(検索拡張生成)」技術を導入 。
導入に至った背景として、当時、社内に十分な資料・情報があったにもかかわらず、その所在が散在していたこと、
必要なタイミングですぐに欲しい情報が見つからないという環境から、
総務担当者への問い合わせチャットが殺到していた。
また、情報の所在が分かりにくくなっ
ていることから、「自ら情報を探しに行く」といったスタンスが定着せず、属人的な対応に常に追われてしまう状態であった。

「RAG(検索拡張生成)」技術を導入したことにより、AIチャットボットが社内規定を都度検索・参照し、常に最新の情報に基づいて回答する仕組みを構築した。かつて、手動更新が追いつかず形骸化していたチャットボットは、資料を置くだけで最新の情報にたどり着ける道を開き、ストレスフリーな情報アクセスツールへと進化したのだ。
こうした環境が整ったことにより、自律的な情報取得のサポートに繋がった。

 

「守り」から「攻め」へ。新たなる価値の創造と目指したい未来

これまでの取り組みは、既存業務の効率化という、いわば「守りのDX」が中心だった。 しかし、彼らが次に見据えるのは、新しい価値を生み出す「攻めのDX」へのシフトだ。

その実現に向けた具体的な挑戦の一つは、「最新技術を取り入れた業務の最適化」である。
AIなどの最新技術が日々進化していく中で、その高度な機能やシステムをキャッチアップし、ソリューションとして取り入れることは、現場の業務最適化の可能性を広げる一歩でもある。

一方で、新しいものを取り入れるにあたり、「環境と役割」を再定義することも重要だ。
AIなどの最新技術を取り入れることを前提にデータの流れそのものを最適化し、「人が担うべき業務」と「技術(AI)に委ねる業務」を明確にする。AIが走りやすい道路を整備するような、根本的な構造改革を目指している。

ただし、これらのツールの導入や高度な最新技術の実装は、彼らが目指す真のゴールではなく、そのゴールに近づく手段でしかない。

「社員一人ひとりが己の業務を真に理解して言語化をできるようになり、
『この作業、AIに任せられるかも?』
のような、己の業務設計と技術を自発的に結びづけられる意識を育む企業文化をつくること」 。

社員一人ひとりがテクノロジーの可能性に気づき、エンジニアと共に新しい価値を創造していく。
そんな「人と技術が共創する組織」への変革こそが、彼らの描くビジョンだ。

AIの進化は止まらない。しかし、それを使いこなして価値に昇華させ、真のDXを実現させるのはいつだって「人」だ。
技術と現場を繋ぐ「翻訳者」である彼らの挑戦は、単なる業務効率化ではない。生まれた余白の時間で、社員一人ひとりがもっと創造的な仕事に向き合い、新しい価値を生み出していく——。

「Chances for everyone, everywhere.」

誰かの、そして自分たちの可能性を広げるために。
レアジョブグループのコーポレートエンジニアたちは、今日も現場へ足を運び、対話を続けていく。